台風15号の風で倒された杉浦醫院庭園の「大木」については、当H・Pの「ニュース&お知らせ」コーナーで報告したとおりですが、翌朝、純子さんから、淡々と、かつ含蓄のある言葉をかけられました。「昨日はご苦労様でした。私も夜しみじみ思いましたが、たくさんの方々の手で、多くの人に見守られ、最後には町長さんにまで見届けていただいた訳ですから、あの木の最後は本当に幸せでした。これまでも沢山の木を切りましたが、こんな幸せな最後を迎えた木は初めてです。」と。「池の横にあった大きな欅を切ったのは、もう30年位前になりますが、名古屋の材木屋さんが来て200万円で買っていきました。お金になったのはそれが最後で、その後は、いくら大きな欅でも伐採費用を払うようになりました」「欅は、冬の裸木も見事で、春の芽吹きは目映いばかりにきれいで大好きでした。周りが田畑だったころは、落ち葉の苦情もなく季節ごと表情を変える欅を楽しめました」と杉浦家の大木伐採の歴史も話していただきました。
暗い中での伐採作業で、高さが同じくらいの樫の木が、東側に何本かあったことから、消防や建設関係者も一様に「樫の木」という共通認識で作業を進めました。「樫は堅いから大変だ・・」と。朝、葉っぱや幹が、樫の木と明らかに違うことに気付き、純子さんに「石碑の横にあったあの木は、樫ではないようですが」と聞くと「あの辺には、えんじゅとかエンジとか言っていた木がありましたから、樫でなければ、えんじゅだと思います」とのこと。えんじゅについて調べていると、杉浦医院を建設した橋戸棟梁が見え、「あの木は栴檀(せんだん)だよ」と教えてくれました。材木を扱う棟梁が云うんだから間違いないか?と思いましたが、純子さんに聞いてみると「栴檀は、以前裏の柿の木の横に1本ありましたが、大きくなると言うので切りました。表にはなかったと思います」「樹齢が6~70年の木ですから、純子さんが知らない訳ありませんよね」で、栴檀説もあやしくなると造園科卒のI君は「葉や幹からすると小楢ならではないか?」と・・結局、土曜日にこの庭の剪定等に入っている鈴木緑化土木の親方が来て、開口一番「えんじゅが倒れたのか。建築材料にもなるいい木だよ」で、純子さんの記憶通り「えんじゅ」でした。
えんじゅは漢字で「槐」と書き、中国原産の落葉高木で、7月ごろに開花する白い花は、蜂などが蜜を集める重要な蜜源植物だそうです。開花直前のえんじゅのつぼみを採取して日干したものが生薬の槐花(かいか)で、止血作用がある漢方薬だそうです。屋敷の北東に植えると厄除けになると言われたり、仏像にも使われる由緒正しい木のようです。確かに、伐採された後も「樫の木」「栴檀」「コナラ」等々の話題を集めた「槐」ですから、親方の手でベンチに加工され、この先も存在感を放ってくれることでしょう。