2016年11月14日月曜日

杉浦醫院四方山話―488『第4回 杉浦醫院院内コンサート』

  4回目の院内コンサートは、「杉浦醫院のピアノと過ごす午後のコンサート~愛する人へ~」と題して、ピアニスト・佐藤恵美さんをお迎えして行われました。


 このコンサートに合わせて3日前に富士市の辻村音楽企画店の辻村氏と臼間氏がピアノの調律に来てくださいました。

辻村氏は、「調律は弾く人のタッチに合わせて行いますから、佐藤さんの好みが分からないと満足していただける調律は出来ません」と云うので、東京にお住いの佐藤さんのピアノの調律も任されているのか聞いてみました。

「私は、そのピアノを弾く人と必ず事前に話をするようにしています。佐藤さんとも電話で話しました。50年この道一筋ですから、話の中で好みやクセと云ったものが自然に分かり、それに従って調律しますが、まず外れることはありません。そうでなくちゃベテランなんて言えませんよ」と、極控えめにおっしゃいました。


 例えば、「対面して話すと目や口の動きでその人の気持ちが分かる」とか「早口で話す人は頭の回転が速い」と云ったような人間判断を心理学者と称する人が、面白おかしく書いていますが、「話をしてピアニストのタッチの好みが分かる」と云う話は、初耳でした。「佐藤さんのタッチに合うよう調整しておきました」と云って帰途についた辻村氏ですから、初耳の話にも一層信憑性も増し、自信の調律だったこともうかがえました。


 今回のプログラムは、1部は11曲の「愛の曲」で統一され、2部は春夏秋冬の「日本の懐かしい名曲」を15曲、計26曲のピアノ演奏でした。

佐藤さんは、それぞれの曲紹介に作曲家のエピソードなど分かり易い解説を交えての楽しい演奏会を演出してくださいました。

 ベートーベン作曲でオルゴールでもお馴染みの名曲「エリーゼのために」は、ベートーベンが愛したテレーゼという実在した女性のために作った曲だったそうです。ベートーベンが悪筆だったことから判読できず、テリーゼがエリーゼになってしまったというのが、この曲名の定説になっていること等々、エルガーからグリーグまでの西洋音楽史を楽しく学べた演奏会でもありました。


 国立音楽大学で教えている佐藤さんは、杉浦醫院のピアノについても調べたそうで、「現在これと同じピアノは、宮中に一台とここに一台。もう一台は形は残っているそうですが音は出ませんから実質2台しかありません」と話し「しっかりした素材の木が使われているピアノですから、このようにきちんと手入れさていれば、いつまでも使え、音色も違います。弾くたびに私はこのピアノに感動し、虜になってしまいました」と皆さんに語りました。

 

 「ピアニストと話せば自然に好みやクセも分かる」と云った辻村氏の話と佐藤さんの「本当に素晴らしい調律がされていて、気持ちよく弾けました」と云う言葉が重なり、あらためて辻村氏の慧眼と自信に裏打ちされた技術力に敬服してしまいました。

 演奏するピアニストやそのピアノを日常的に使う人の好みやクセを把握した上で、はじめて調律が出来ると云う辻村氏。言われてみれば当たり前のようですが、一般的な調律は、そんなことにお構いなくするのが普通になっているのが現実ではないでしょうか?

 

 昨年のコンサートに合わせボランティアでピアノ再生をしていただき、今年から定期的に調律をお願い出来ることになりましたが、遠路お越しいただき調律作業の時間も人数も「普通」の倍以上ですから、辻村氏からは、「世の普通がおかしいのだ」と言う事を身を以て教えていただいているようです。

辻村さん、臼間さんが調律したピアノの良さを十二分に引き出しての佐藤さんの演奏、一台の名ピアノが醸す絶妙なハーモニーとして、「是非、来秋も」とのリクエストによろしくお願いいたします。