銀行などで「印鑑お持ちですか?」と聞かれても特に違和感もない現代ですが、正確には「判子お持ちですか?」が正しいようで、一般的な棒状の印を「判子」、その判子で紙におした文字を「印鑑」または「印影」と分けているそうです。また、「~印章店」と云う看板の判子屋さんがありますが、「印章」は、判子に彫られた反転文字を指しますから、綺麗な印鑑・印影になるよう彫る技術が問われる訳で、彫りに自信のある専門店が「印章店」とするのも頷けます。
杉浦家は、江戸時代からこの地で医業を営んできましたから、「判子」の数も半端ではありません。歴代の先生と家族の実印や銀行印、認印に加え、「杉浦醫院」の角印や丸印まで、用途によって材質も様々な判子が残っています。健造先生や三郎先生の男性用は「象牙」か「水牛」、奥方始め女性用は無色透明の「本水晶」で統一されているようです。また、医院の院判は「木」ですが、これは本柘植(ほんつげ)と呼ばれる判子専用の木のようで、コンピューターと機械で自動的に彫りあがる現代の判子と違って、一本一本手彫りで彫られた時代の判子は、その印鑑・印影を見たくなる印章です。丸印の印章は、この大きさで反転して彫ってありますから、印章を読み取るのは難しいのですが、朱肉を付けて印鑑をみるとはっきり読み取れます。
同時に、代々引き継がれてきた院判は、千両箱のようにそれぞれの角や要所を鉄で補強した頑丈なうえに緻密な造りの立方体の判子入れに納まっています。現在も前面の丸いノブを押すと上に開き、しまう時は「カチッ」と締まります。また上部のとっ手を持つとピタッと水平になり、カバンのように持ち歩けます。左上の丸印は、「山梨県 中巨摩郡 西条新田 杉浦健造」と縦4列、左下の黒い角印は「杉浦 醫院」が縦2列に彫られています。あとの細い棒印は、それぞれの目的で押し分けた「杉浦」の大中小の認印です。