2019年10月1日火曜日

杉浦醫院四方山話―593『ハチの季節・雑感』

 杉浦醫院各所には、新旧併せて幾つものスズメバチの巣があります。

永い間、純子さんが静かに生活していたのでハチも安心して巣造りが出来、安らかに短い一生を送れたことから、ハチにとっては地上の楽園としてこの屋敷は引き継がれているのでしょう。

 

 スズメバチは、春から巣を作り始め秋までかけて巣を大きくしていきますから、その一生は巣造りに終始しているようにも思います。ひとつの巣が1年を超えて使われることはありませんから、古い巣があってもハチはいません。

女王蜂の元で巣造りに励んだ働き蜂や雄蜂は、寒さや寿命で冬を越えることが出来ず、越冬することが出来るのはその年に生まれた新女王蜂のみです。

 

 冬眠から覚めた新女王蜂も親が造った巣を基本に新たな巣造りを始める訳ですから代々作られる場所は数十メートルの範囲で、軒下など人の出入りの少ないハチにとっても安全な場所が選ばれます。巣造りの最盛期(7月から9月)には働きバチが1,000匹を超えることもあると云いますし、この時期は巣を守ろうと攻撃的にもなりますから、巣に近付かないよう注意が必要になりますが、人間とハチの共存が可能なのは養蜂家という職業があることでも分かります。


 「安全・安心」が最優先される現代社会では、ハチによる事故も大きく報じられ「ハチは怖いモノ」「駆除すべきモノ」として忌み嫌われていますが、「蜂蜜」に代表されるように人間の食料としてもハチは貴重な昆虫でもあります。

特に山梨県内では、昔から蜂の子やクロスズメバチの幼虫を「へぼ」と呼んで、甘露煮や炒め物にして酒の肴にしたり、炊き込み御飯にして食べてきましたが、今ではチョー珍味でお目にかかれることも少なくなりました。


 そんなハチですが、杉浦醫院のように不特定多数の来館者を迎える施設では矢張り安全・安心は最優先しなければなりませんから、これまでも新しい巣を見つけると駆除してきましたが、それを学習してか?今年は、竹林にある古い木の切り株の下の土中に巣を造りました。

「竹林にハチがブンブン舞ってるよ」と庭園の剪定に来た庭師が教えてくれましたが、巣は見当たらず、観察すると土の中に出入りしていることから巣は土中にあることが分かり、素人では無理なので駆除会社に巣の撤去を依頼しました。


 プロは、一日目は巣の出入り口から強力な殺虫剤をたっぷり噴霧して「後日、巣の撤去をします」と帰りました。数日後、撤去に来て、土を掘っていくと殺虫剤で死んだハチが次々と出てきました。


 その後は、文化財の発掘作業と同じように慎重に少しづつ掘り進め「これですね」と上から見たら配管のパイプのようなモノが巣だと云いますが素人にはハチの巣とは思えません。徐々にその周りを掘り、抱え出したのが下の写真の巣です。上から見たのは巣の裏に当たる部分だったことが分かりましたが、これだけ堀った土の中にこのように精巧な巣を造りあげる能力に感心すると共に美術作品のようにも思えてきて「そっとして置いてあげればよかったかなー」と複雑な気持ちになりました。


 池を観ながらの一服が昼休みの楽しみですが、今日、一匹のスズメバチが舞い降りてきて、上手に水を飲みだすのを目撃できました。チョコチョコと水をつつくように飲む姿は何とも愛らしく「生き残ったのもいたんだ」と嬉しくもなりました。


ひょっとしてあの水飲みクインビーは、新女王蜂かも!とすると来年もこの屋敷内に巣は造られるかな?とまたまた複雑な気持ちになりました。