2019年5月2日木曜日

杉浦醫院四方山話―579『依田賢太郎氏からの寄贈本』

 4月に当ブログで2話に渡って依田賢太郎氏の著作「いきものをとむらう歴史」とその中で取り上げられている杉浦健造と「犬塚」について紹介してきましたが、そんな縁で、この度依田氏から当館に2007年刊の「どうぶつのお墓をなぜつくるのか」と2018年刊の「いきものをとむらう歴史」の2冊の著書をご寄贈いただきました。


 2冊とも社会評論社から刊行された本ですが、依田氏は2005年には子どもを対象にした「東海道どうぶつ物語」を東海教育研究所から刊行していますので一貫してどうぶつと日本人の関係をテーマに調査研究をしてきたことになります。

 

 精読させていただくと単に「どうぶつのとむらい」の足跡をたどった本ではなく、依田氏の人生観、哲学が依田氏をして足跡をたどらせたことが分かります。

それは、執筆にあたって参考にした文献一覧にも表出されています。

柳田国男や谷川健一、川田順造、鯖田豊之と云った多くの民俗学者の著書、山折哲雄や梅原猛から末木文美士までの宗教学者の著書をはじめ歴史学者や哲学者の著作や県史や各教育委員会発行のガイドブックまであらゆるジャンルの資料を紐解いて、依田氏が集大成した哲学がどうぶつを通して語られていることを参考文献一覧が物語っています。

 

 また、「私はこれまで、病気や事故で失われた人間の体の働きを助けるための人工臓器や、痛みを取り除くための装置などの研究をしてきました」と云う工学博士の依田氏ですから「ネズミなどの小動物の血液や細胞を使った最小限の実験が欠かせなかった」と云う現実に直面して「どうぶつのとむらい」と日本人の歴史に向き合うようになったようです。

これは、自分の仕事に誠実に関わると観えてくる世界も広がり、解明すべき課題も次々に押し寄せ、結果として上記のような広いジャンルの資料も読み込む必要に迫られると云う研究者の宿命に忠実だった依田氏の姿勢と視点の確かさに拠るものでしょう。


 依田氏は「どうぶつのお墓をなぜつくるのか」のエピローグで、動物塚は「いのちの物語」であるとして、最後に「贅沢で、無駄の多い、豪奢な生活を追い求めるのではなく、簡素で、無駄のない、足ることを知る生活が求められています。動物や自然はそのことを教えてくれます。そして、簡素をとるのは勝れて積極的な選択です」と結んでいます。


 多くの「いのち」に向き合ってきた杉浦醫院に依田氏寄贈の「いのちの物語」の著作本が新たな資料として展示出来ることは、健造先生が「犬塚」建立に流した汗が約百年後に同じ高校の同窓生によって結実した不思議な縁も感じます。小学生向けの「東海道どうぶつ物語」も購入して揃えておきますので、杉浦醫院で親子ご一緒に「いのち」についても学んでみてはいかがでしょう。