2014年10月5日日曜日

杉浦醫院四方山話―368『来館者素描-2』

前話がちょっと重たい来館者の話でしたので、今回はアットホームなBさん親子の素描です。

まあ、「アットホーム」なんて言葉も簡単に使いましたが、「具体的なイメージや意味も人によってだいぶ違うんだろうな」とふと思い、同じように「家族」も当たり前の共通理解があるようで、実は個々には違っているのかも知れません。

 

  一時期「サルもの」と分類された書籍がよく出版されましたが、京都大学の山極寿一教授がサルやチンパンジー、ゴリラとのフィールドワークを重ねて書いた本が好きでした。

 山極氏から「子育てをするサルはいるが、父親であり続けるサルはいない。人間の家族はオスが父親になることで出来上がった訳で、家族は人間にしかない」ことを教えられ、子どもの目途が付いたらサルのように自由に放浪したいという思いが強くなったのを覚えています。

山極 寿一(やまぎわ・じゅいち) 1952年生まれ。京都大学大学院理学研究科教授。日本霊長類学会会長。長年にわたり、野生のゴリラやチンパンジー、ニホンザルの社会的行動を調査するとともに、その保護活動を行ってきた。主な著書に『暴力はどこからきたか』(NHKブックス)、『ゴリラ』(東京大学出版会)、『家族の起源』(東京大学出版会)、『人類進化論-霊長類学からの展開』(裳華房)、『サルと歩いた屋久島』(山と渓谷社)など多数。
京大学長より一研究者がお似合い?

しかし、山際氏は「人間は共同で長い時間をかけて子どもを育てるから、そこに共感が生まれ育って家族が誕生したと云う文化的、生物学的進化の賜物である」と、私のような浅学にクギを刺してくれました。

そういう意味でも「個人主義に突き進み、格差を生み出している現代の人間社会は、利益を重視し、ヒエラルキーを構築するサルの社会そのもので、人間社会がサル化してきた」と警鐘を鳴らす山際氏の危惧は一貫しています。

 

  アットホームな来館者Bさん親子は、この山極氏を思い出すに余りある方でした。

定年で一線を退いた父親と娘さんがご一緒に来館され、「全く家族だけで読む家族新聞を作っているので、写真を撮ってもいいですか」と、それぞれが展示物や館内を熱心に撮影していかれました。

インターネットのHP等で、手作りの家族新聞を紹介している人が増えていると云う話は知っていましたが、「家族だけで読む家族新聞」を成人した家族で発行していることに驚きと新鮮味を感じました。

同じ杉浦醫院を見学しても60代の父と30代の娘では、記事にしたい視点も違ってきて、それを新聞に載せることで、家族全体でその違いを認め合ったり、違いを楽しんだりしているのでしょう。

「人間にしか造れない家族であればこそ、時間をかけて一層良い家族を構築していこうと云う具体的な営み」が、Bさん親子の家族新聞取材見学だったのでしょう。

 

 最近は、「おひとりさま」と云う言葉も一般化するほど家族をつくらず個人で生きていくスタイルも増えていますが、山極氏は、「それは危険だと思います。家族という集団に縛られないことで自由になれるかというと、実はそうではありません。個人のままでいると、序列のある社会の中に組み込まれやすくなってしまうのが現実なわけです。それはまさにサルと同じ社会構造です」と、裁断していますから、Bさん家族は、山極氏のベスト推奨家族と云っても過言ではないでしょう。

 

 「是非、ご迷惑でなかったら私にも読ませてください」とお願いして、ピーピング癖を晒してしまいましたが、覗きたくなる魅力をBさん親子が醸していたのは確かです。