2011年8月26日金曜日

杉浦醫院四方山話―71 『うちわ-2』

 杉浦家には、歴史的なうちわも数多く保存されています。全く未使用の「東京日本橋團扇榛原直次郎」と記された袋入りのうちわは、同じ作家の異なる絵柄で3本あります。この会社は江戸時代に創業し、ウィーン万国博覧会(1873年)、パリ万国博覧会(1878年)に日本で初めて和紙を出品し、現在も株式会社榛原として続いている和紙を扱う老舗です。ヨーロッパに渡った榛原製の和紙は、イギリスのビクトリア・アルバート美術館、グラスゴー美術館、フランスのパリ装飾美術館などに、現在も保存されているそうです。こういった美術工芸作品のうちわから岡島呉服店や柳町梅林堂等々のうちわまで、実物をご覧いただくのが一番ですから、「杉浦家うちわ展」の検討が必要ですが、今日は、杉浦家に全て揃っている「日本3大うちわ」について講釈してみます。「日本3大うちは」とは、うちわの3大生産地でもあります。


 左の写真は、「房州うちわ」と呼ばれる千葉県南房総市、館山市にかけての特産うちわです。この地方に古くから自生する女竹という細い篠竹を原料に作ることから、細く割いた骨と一体となった丸い柄が特徴です。実際手に持つと細い骨のせいもあり軽く感じ、丸い柄は優雅でもあり、女性向きと云った印象です。 
                           
 骨と柄が一体で、柄の部分が平らなうちわは「丸亀うちわ」で、香川県丸亀市とその周辺地域で作られています。丸亀うちわは平たく削った男竹と呼ばれる真竹が材料ですから、柄も太く男性向きの感もします。街頭などで無料配布される骨も柄もプラスチック製の現代うちわは、この丸亀うちわの形状が主流でしょう。

 京都市一帯でつくられる「京うちわ」は、別名「みやこうちわ」とも呼ばれ、細い竹ひごに紙を張った骨部分と柄は別々で、柄をさし込んでいるのが特徴です。浴衣の帯に差し込みやすいように長い柄のものなど骨と柄が一体でない利点を生かした種類の多さと涼をとる実用品としてのうちわから鑑賞用のものまで、バリエーションに富んでいるのも特徴です。

 京うちわに限らず、うちわの価値や値段は、骨部分の細い竹ひごの本数で決まるようです。手元にあるプラスチック製の現代うちわのプラスチック骨は27本ですが、岡島呉服店のうちわは67本、日本橋團扇榛原のうちわは88本の骨があります。百万円という京うちわは、100立てと云われる100本以上の細い竹ひごに両面から高級和紙を貼り、有名画家の手描き絵にサインと落款も配され、額のような「うちわたて」とセットですから、観て涼しむ「うちわ」という名の立派な美術工芸品です。