ベストセラー「がんばらない」の著者鎌田實氏、映画化された「阿弥陀堂だより」の原作者南木佳士氏、「大往生の条件」の色平哲郎氏の三人は、作家であり現役の医者として共に信州在住、在勤です。なぜ、こういう発信力のある医者が信州に多いのか?これは、若月俊一医師による佐久総合病院の存在と地域医療への取り組みが、心ある青年を信州に向かわせたのだと、南木氏の「信州に上医ありー若月俊一と佐久病院ー」(岩波新書)に詳しいです。
また、東大工学部を中退して世界放浪の旅に出た色平氏は、帰国後、京大医学部へ再入学し、佐久総合病院に入った異色の経歴もさることながら、地域医療の原点を長野で培われた「風」と「土」の風土論を座右に実践しています。≪農家は「土のひと」。村の医者は「風のひと」。山村の本当の暮らしを知らなければ患者に的確な処方はできない。草刈りなど共同作業に加わり、酒を酌み交わし、深夜でも往診した。やがて人々は診察室で自分史の断面を語るようになる≫と。
この信州独特の「風土論」を昭和22年に著書「風土産業」で公にしたのが、三沢勝衛氏です。「人間が立ち働いている大地と大気の接触面、ここを風土と名付け、この風土を活かす適地適作・適地適業」を提唱したのが「風土産業」論です。戦後の公民館活動興隆期に三沢勝衛氏の風土産業論に立脚した玉井袈裟男氏の地域づくり論によって一層広がり、その活動に社会教育の原点を認めた東大の宮坂廣作氏と宮坂理論の継承者でもある学芸大の黒澤惟昭氏は、共に招聘された山梨学院生涯学習センター長職を早々と見切り、故郷信州に戻って、「風の人」を実践しています。
隣県である信州信濃の国の際立った「風土」について、自覚した「風の人」の著書から系譜をたどり、概要と共に内容を知る機会となれば・・・という趣旨で、この展示会を計画しました。特に、現在では入手不可能な三沢勝衛氏の貴重な著作物も展示しますので、じっくり時間をとって、お読み頂けたらとおもいます。鎌田氏、南木氏、色平氏の著書は、全て町立図書館の蔵書を展示しますので、この系譜展終了後は、図書館で借りることもできます。会場は、旧医院建物裏に完成した「もみじ館」です。館内で資料を読むこともできます。5月7日(土)から5月いっぱい日曜日を除く午前10時から午後4時まで自由観覧ですので、お気軽にお越し下さい。