2011年3月19日土曜日

杉浦醫院四方山話―35 『地震と歴史的建造物』 

 ニュージーランドのクライストチャーチでの直下型地震に続き、東北地方を襲った今回の大震災は、津波と原発で一層、犠牲者が広がっていますが、未曽有の大災害にもパニックや暴動、略奪などが皆無であることを日本人の底力として、お互いに誇り合いましょう。クライストチャーチは、古い建物や街並みを大切にしてきたことが人気となって、結果的に被害を大きくしたという報道もあり、古い建物=耐震基準を満たさない危険建物といったイメージですが、京都や奈良の五重の塔や歴史建造物が、今まで地震で倒壊したと言う記録やニュースは聞きません。
 杉浦邸の母屋をはじめそれぞれの建物は、関東大震災でも今回の大地震でも瓦一枚落ちませんでした。昨年4月からの改修や新築で数社の大工さんが入っていますが、口を揃えたように言うのは「ホントはこういう建物の方が強いんだよなー」でした。今回も揺れている母屋を目撃した大工さんは「ギシギシガラガラと音は凄かったけど、南も西もガラス戸で壁がないのに何ともない。柱と梁の質と組み方が違うからなぁ」と。
 何百年も地震に耐えてきた日本家屋は、壁に「筋交い」を入れたり柱や梁を金属ボルトで固定したりする現代の木造住宅と違い、太い梁をしっかりした柱で、釘や金物に頼らない木組み支えています。この伝統構法は、柱を基礎の石の上に置く石場建て特色で、揺れながら地震の力を吸収する柔構造に工夫が凝らされているそうです。この伝統構法は、戦後の建築基準法の枠から外されたため、大工さんの技術継承も難しくなって姿を消し、「在来工法」と呼ばれる耐震基準をクリアする現在の木造建築になりました。しかし、「どこが在来だ」と言われるぐらい建築金物が多用され、環境によってはすぐに発錆、腐食し性能低下を招いたり、柱ごとおおう大壁は、結露で木そのものをも腐食させることもあり、木の本質を活かした建物の方が、実際は強いというのです。クライストチャーチ地震で、「日本の文化財の耐震性は大丈夫か」という議論もありますが、日本の歴史的建造物が、何百年も地震に耐えてきた実績とその工法の解明、説明をしっかりしていくことの方が大切だという指摘もあります。そうは云っても国指定の重要文化財は、建築基準法適用外で済みますが、杉浦邸が申請準備中の登録有形文化財は、一般住宅同様、耐震基準が義務付けられています。老朽化による強度不足など基本的なチェックと必要な修理や補強は当然ですが、耐震基準を満たすためにむき出しの筋かいや壁の増設、コンクリート補強など・・・折角の風情を台無しにしてしまったのでは意味がありません。その辺の兼ね合いで、フルタイムの公開を控えたり、不特定多数の入場を制限するなど、文化財建造物の維持管理と公開には、「知恵」が必要になるのが実態です。