2011年3月4日金曜日

杉浦醫院四方山話―31 『永仁の壷-4』

 何時に寝ても夜中に必ず目が醒めるのがジジイの特権ですが、それは、「ラジオ深夜便」が不動の人気番組となっていることでも日本の高齢化社会が証明できます。何を隠そう、私も夜中に迷想次元の勝手な考え事をするのが愉しみになっています。その為の小道具に小林 秀雄の講演と小原孝のピアノのCDが必需品となりました。小林秀雄の講演は、べらんめえ調の江戸弁で、ポンポン決めつけての断言が見事ですし、含蓄があるので、思わず『よージジイの星!』と声を出したくなります。同時に、「イカンイカン、小林秀雄なんかに惹かれちゃあー。師は、エロジジイ金子光晴だ」と思い直して、小原孝のエロい演奏で、バカな妄想にふけったり・・・「こんなジジイに年金をくださるこの国は、ホント、世界で唯一成功した社会主義国家だ」と感謝申し上げたり、それはそれで、忙しい「夜中の私」です。
                        ―閑話休題― 

≪本物は増えないが、欲しいという需要があるからインチキ商売が始まった。例えば、雪舟の本物は数点しかないのに雪舟を掛けたい人は数万人もいる。そこに贋物の存在理由があるのだ≫とか≪裸茶碗や表装のない書画に本物はあるが、箱や鑑定書のない贋物はない≫と云った小林秀雄の「真贋」についての含蓄ぶりを紹介しようと・・・バカな前置きを長々と失礼いたしました。
『永仁の壷-1』で、「確か、松本清張が小説にしましたよね。・・」云々と知ったかぶりを書きましたが、小説「永仁の壷」は、「私、プロレスの味方です」のダンディーな作家・村松友視でした。推理物は、全て松本清張というホント浅学非才の見本のようなハズカシィー男ですが、正確を期そうと昨夜、数十年ぶりに読み返して驚きました。そして「これは大発見だ!」とメモしました。
『小説・永仁の壷は、村松友視が上田馬之助やラッシャー木村に注ぐ眼差しで、小山冨士夫と加藤唐九郎を描いた<プロレス小説>だったんだ』と。
<贋物を恐れるな。贋物を買えない人間に、骨董なんか分からない>といった骨董・古美術界と<ガチンコ・八百長不可思議ゾーン>のプロレス界。狭い骨董・古美術会でのだまし合いは、四角いリングでの出来レース。善玉は、力道山の贋物ラッシャー木村=重要文化財指定に尽力した小山富士夫VS悪玉は、金髪の和製ブッラシー上田馬之助=癖もの陶芸家・唐九郎。無力なレフリー・ユセフトルコ=文部省は、馬之助の凶器攻撃を止められないまま両者リングアウトで試合終了。血だらけで黙って引き揚げる木村にマイクを握った馬之助が吠える「木村!お前が指定した重要文化財は俺の作品だー」。老いてもリングに生きた木村と馬之助、事件後も骨董・古美術界で沈まなかった小山と唐九郎。等々「男はみんなプロレスラー」の村松友視らしい裏ワザ小説だと気付きました。「本も一度読んで分かったつもりになっている諸君は、35年古事記を読み込んだ宣長さんの姿勢に学びなさい」を繰り返す小林秀雄は、本当に正しい!