2018年11月25日日曜日

杉浦醫院四方山話―562『三郎先生の軍刀ー3 つなぎ刀・白鞘(しろさや)』

 三郎先生の軍刀と刀掛けは、昭和町に寄贈された「杉浦家コレクション」として、書画骨董などと共に展示・公開していく手立てを刀剣研磨師の井上弘氏にご相談し、登録証の取得まで進みました。

 

 登録証取得後、井上さんから「この刀は鍵のかかるガラスケースの中に置くの?」と聞かれ「予定としては土蔵の床の間を考えています。螺鈿の刀掛けも手に取って意匠を凝らした裏まで観て欲しいので・・・」と応えると「そうだよ、興味のある人は手に取ってみたいものだよね。それじゃあ≪つなぎ≫と≪白鞘≫が必要だね。」と、「つなぎ」と「白鞘」の実物を出して、私にも分かるように説明してくれました。


 「つなぎ」は「つなぎ刀」のことで、凶器ともなる現在の真刃と同寸に朴の木を加工して造ります。「つなぎ」は、真刃に代わる竹刀とも呼ばれる安全な偽刀で、これを鞘(さや)に納め展示用に使い、抜いた真刃は「白鞘(しろさや)」と呼ぶ刃を錆びから守る新たな鞘に納めます。この「白鞘」も朴の木で真刃の反りや長さに合わせ寸分の違いも無いよう真刃がピタッと納まるよう造ります。

 このように刀剣研磨師は、刃の砥ぎだけでなく砥ぎあがった刃を保管するための「つなぎ」や「白鞘」の制作も重要な仕事であることを知りました。

 

 子どもの遊びから「チャンバラごっこ」も消えたのかオモチャの刀も見かけなくなりましたから、私たちが修学旅行先で定番のように買った木刀も人気薄なのでしょうか?

 今回、井上さんの懇切丁寧な説明で本格的な日本刀の世界をのぞき見出来、知らなかったことやなるほどと云う事の連続でしたから、最後にその辺について2・3披露して締めたいと思います。

 

 私たちが日常生活の中で耳にしたり使っている慣用句(ことわざ)には、日本刀の部位から来ているものが多いことも知りました。

 

 先ずは「ライバル同士がしのぎを削る」の「しのぎ(鎬)」は、日本刀の刀身を刃側から見て1番横幅がある部分の名称です。刀と刀がぶつかる時には刃で受けず、しのぎ部分を使って受け止めることから「しのぎを削る」と云う言葉が生まれたそうです。

 

 同じような意味合いのことわざに「つばぜりあい」がありますが、互いに相手の打った刀を自分の刀の鍔(つば)で受け止め押し合い闘うところから来た言葉でした。日本刀の鍔(つば)の部分は知っていましたが、「鎬」も「鍔」も読めない、書けない漢字で「しのぎ」「つば」のフリガナが私には必要でした。

 

 オマケにもう一つ、「せっぱつまる」は「切羽詰まる」で、切羽も日本刀の部位の名称です。「鍔(つば)」と「はばき」の間にある薄い金属板を「せっぱ」と呼ぶそうで、日本刀でこのせっぱが詰まると刀が抜けなくなってどうにもならなくなることから「切羽が詰まる」と云う絶体絶命のピンチを指す慣用句ですから、「ホント日本刀は深い!」が実感です。