2018年11月19日月曜日

杉浦醫院四方山話―561『三郎先生の軍刀ー2 登録証』 

 前話のGHQによる昭和の刀狩りに付随して、日本人が刀を自由に保有する事を規制する意味もあったのでしょう、美術品の日本刀を所持するには、日本刀1本1本に「登録証」が必要となり、この登録証の無い日本刀を持っていると不法所持として、懲役や罰金が科せられるようになりました。ですから、現在日本にある日本刀は全てお上に登録されていることになります。

そのお上は、都道府県の教育委員会ですから、登録済みの日本刀は全て有形文化財と云うことにもなります。


 では、今回の三郎先生の軍刀は登録済みだったのでしょうか?登録してあれば刀と一緒に発行された「登録証」が残っているはずですが、純子さんも「父や私が登録した記憶はありません」と云っていましたからから、探しても出てこないものと思われます。

 

 井上さんは「杉浦先生のように代々続く旧家などでは、整理していたら「登録証」の無い刀が見つかったということはよくあるんです。そういう場合は、刀を持って南甲府警察署の保安課へ発見届けを提出しなければならない。刀が必要なければ警察に置いて帰ればいいんだけど、これは何時どういう状態で誰が見つけたの発見届を出して、登録証をもらって保存すべき刀だから、直ぐにでも発見届を出すことだね」と教えてくれました。


 このように新たに「登録証」を得るには先ず警察署に「発見届」を出すことから始まります。この手続きが済むと、警察は届け出済み書と刀を返してくれます。

この届け出済み書に記載されている日時に、山梨県教育委員会に刀と届け出済み書を持参し、「登録証」発行の審査を受けます。

 

  この審査は日本刀の専門家によって行われ、伝統的な鍛錬を行い、焼き入れを施した日本刀であることが第一条件で、価値のあるものにのみ発行されます。表面的な錆(さび)であれば井上さんの研ぎによって本来の姿を取り戻せますが、芯まで錆びているような状態では登録証は発行されません。粗製乱造された鉄をただ打ち延ばして刃を付けただけの刀や、車のスプリングに使われていた板バネを加工したいわゆるスプリング刀や、一部の軍刀で洋鉄を使って作られたものなどは審査ではねられるそうです。

 

 このように、今回、三郎先生の軍刀は、警察への発見届けを経て県教委の審査にパスして下写真のような「登録証」が発行されました。

これさえ有れば刀掛けにそのまま掛けて展示公開しても良いのですが、不特定多数の方を受け入れる施設では、刀を容易に手に取ることが出来ないようにしなければなりません。なぜなら、その気になればこの刀を凶器として振り回したり、盗すまれ悪用されることが危惧されるからです。


 その辺をクリアする最善の方法も井上さんからご教示いただきましたので次話に続きます。

ご覧の通り「登録証」は、この刀についてのみの記載であり、所有者名など入っていません。これは、この刀が登録された証明で、所有者はこの登録証が有れば変更可能であることを物語っています。美術品として売買が想定されることから車の名義変更と同じ扱いになるよう図られているのかもしれませんが、ある意味、自動車一台一台に付いている「リサイクル券」と全く同じシステムのように感じました。