2018年10月24日水曜日

杉浦醫院四方山話―557『千歯こき』


  8月に昭和町築地新居のTさんからご寄贈いただいた軽トラック一台分の民具と農具について、大工道具「ちょんな」は紹介しましたが、引き続き今回は、農具「千歯こき」を紹介します。

 

 一昔前までは、秋になると田圃には稲刈りした稲穂が天日乾燥の為に干されていた風景が一般的でしたが、稲刈りと脱穀、選別、乾燥までを一台でこなす「コンバイン」の登場で天日乾燥風景もまばらになってきました。

 

 この天日で乾燥させた稲の穂先から籾(もみ)を落とす作業が「脱穀 (だっこく)」 ですが、「脱穀 (だっこく)」のことを古くは「稲扱き (いねこき) 」とも言いました。

 この「稲扱き (いねこき) 」作業には、「残さず丁寧に」と「能率良く速く」という相反する二つが求められたので、稲扱き (いねこき)用の農具「千歯こき」は、江戸時代からさまざまな工夫がこらされてきました。

 

 左下の写真のように 木の台から鉄製の歯がクシのように水平に突き出した形をしていたことから「千歯こき」と呼んだのでしょうが、千本の歯は誇大でしょう。

鉄の歯が時代や地方によっては竹製だったり木製だったりもしたようですが、鉄製が最も多く、当館にあるものは全て鉄製です。この歯の間隔の違いで稲こき用か麦こき用かが分かります。

 

 台に付属した足置に体重をかけて固定し、櫛状の歯の部分に乾燥した稲や麦の束を振りかざして叩きつけ、引き抜くと稲の場合はこれで穂から籾が落ちますが、籾が付いたままの小さな穂先も出るので、さらに右下の「唐棹 (からさお) 」と云う農具で叩いて籾を採りました。

特に麦では、穂が首から折れて穂のまま落ちるので、その穂を「唐棹 (からさお) 」で叩く作業は欠かせませんでした。

ですから、「千歯こき」と「唐棹 (からさお) 」は、脱穀には必須道具で、稲刈り後の大変手間のかかる仕事でしたから、その後は「足踏脱穀機」更に「動力脱穀機」へと発達しました。

 

 1時間当たりの作業能率は千歯扱きで約45把、足踏脱穀機で約270把、動力脱穀機では600把以上と伝えられていますが、コンバインの出現で「千歯扱き」同様「足踏脱穀機」も「動力脱穀機」さえも今では粗大ゴミ化し、資料館で保存、公開していかないと実物が観れない時代になりました。


 写真は、田んぼの総合情報サイト「くぼたのたんぼ」から転載させていただきました。

 

千歯扱き1

 



唐棹1