2012年4月19日木曜日

杉浦醫院四方山話―135 『硯(すずり)・硯箱―2』

 「これが、硯箱とお揃いの小箱ですが、墨や水差しを入れるものなのか・・・」「ハンコ入れや煙草入れにもなりそうですね」と、純子さんが朱塗りの小箱を探して下さいました。
前話の硯箱と同じ細工の台座が付き、朱の色合い、光沢も全く同じですから、純子さんの言うとおりお揃いのものです。手にとって蓋を開け閉めしてみると百年以上の歳月を経ても寸分の狂いもなくピタッと開け閉めできる精巧な造りに驚きます。
左下の写真は、箱の裏で正確な蓋の開閉を掌っている二つの真鍮製蝶番(ちょうばん)です。右下の写真は、箱の前面にある同じ真鍮の錠前で、蝶番と同じデザインで統一され、丁寧な造りのアンティークの良さが伝わってきます。
 アンティークと言うとヨーロッパがご本家のように思いますが、日本でも何代にも渡って使われてきたアンティークはたくさんあります。アンティークの良さは、その一つ一つにそれを使ってきた人々の人生が裏打ちされていることでしょうか。杉浦家のアンティークには、杉浦家の「物語」が内包されています。
例えば、これまで紹介してきた数々の杉浦家所有のアンティークは、杉浦家の方々が長く使える良いモノを購入して、それを大切に受け継いでいくという生活の仕方が基本となっていることを物語っています。結果的に「良いものは長く使えるのでエコだ」と云う現代的な意識にも合致します。職人の手の温もりが伝わってくるような素朴な味わいを良しとして、自然の風合いを大切に長年使い込むことでより馴染み、愛着も深まることで簡単に処分できなくなるという循環が出来上がってきたものだと思います。
 作られた時代の生活や文化も語り継がれる中で、モノ自身の物語が生まれ、その物語が長い間に様々な人によって引き継がれることで、一層豊かな物語を持つアンティークに成長していく訳ですから、『アンティーク』と『人』は、一体であることも物語っています。