2015年9月2日水曜日

杉浦醫院四方山話―440 『長寿村・棡原(ゆずりはら)』

 山梨県上野原市にある棡原地区は、日本の長寿村として有名ですが、近頃あまり話題になりませんね。

話題と云えば、「カスピ海ヨーグルト」も消えましたね。

 これは世界の長寿国として有名なカスピ海に面し、5000メートル級の山々に囲まれたコーカサス地方の人々が、毎日飲んでいる長寿食と云うことでブームになったヨーグルトでした。

コーカサス地方の人々の健康を支えてきた発酵食「ケフィア」は、カスピ海ヨーグルトとは若干違い、飲み物と云うより食べ物のようですが、「ケフィア」より「カスピ海ヨーグルト」の方がイメージ的に日本人受けしてのブームだったのでしょう。


 フィリピンの日本住血吸虫症患者を救う活動を長年続けてこられた元市立甲府病院の林正高先生から、棡原地区の長寿者の医学的調査をまとめた「上野原棡原地区の高齢者の中枢神経系の健康度について」の論文4巻と「長寿・山梨県上野原町棡原地区老人の健やかさについて」の論文コピーをご寄贈いただきました。



 「長寿村・棡原」と聞けば「古守先生」と云うように棡原を日本の長寿村として世に知らしめたのは、古守病院の古守豊甫医師で、昭和43年以降、古守豊甫氏を班長に「長寿村棡原総合研究班」が毎年棡原で老人巡回検診を行い、長寿の背景は「棡原の食文化」にあることを紹介してきました。



前述の「上野原棡原地区の高齢者の中枢神経系の健康度について」の論文4巻は、林正高先生と古守病院の古守豊甫・古守泰典・古守豊典の3医師及び棡原診療所の古守知典医師による連名論文で、林先生も「長寿村棡原総合研究班」で共に巡回検診を行い、林先生の専門である中枢神経系の健康度を脳波測定と長谷川式痴呆スコアで調査した結果です。



 この論文でも棡原地区独特の食生活であるアワ、ヒエ、ソバ、ムギ等の雑穀を中心とした穀菜食が長寿に繋がっていることを再確認すると共にコーカサス地方同様、傾斜地での労働や生活が平地に比し筋紡錐の使用が多く、動脈硬化予防に大きな役割を担っているなど地理的要因も挙げていますが、林先生は「更には古い日本の家族力動が老人に使命感も抱かせることの精神面も一大要因」と指摘しています。



 肉食など欧米化した食生活や自動車や農機具の普及、核家族化の進行などは長寿村・棡原にも及び、平均的な寿命になり近頃あまり話題にならなくなったのでしょう。

 「健康年齢」とか「健康寿命」などという新たな概念も強調されるご時世、林先生ご指摘の「老人に使命感も抱かせる精神的要因」は、上野千鶴子センセイ云う所の「きょうよう(今日用がある)」「きょういく(今日行く所がある)」と重なりますから、何時の時代も「気持ちだよ 気持ちだよ」の吉田拓郎だということでしょう。