2015年8月20日木曜日

杉浦醫院四方山話―437 『ああ ヨットのようだ』

 甲府盆地の暑さも峠を越えた感じの今日、夏草刈りをしましたが、誰が名づけたのか「雑草」は、その対抗性の強さに教えられますが、「除草剤」と「雑草」については、改めて書きたいと思います。



 野坂昭如の言葉かどうか定かではありませんが「煙草は人生の句読点」は言い得て妙なフレーズで、何かにつけて「生活の句読点」だとか「仕事の句読点」などと言いつつ一服してきました。

そんな訳で、草刈り後、ベンチで一服しながら下を見ると何やら動くものがいるので、のぞき込むと「蟻と蝶」でした。

「花と蝶」は森進一ですが、「蟻と蝶」は三好達治ですから・・・・急いで撮影しました。

右上の白い石の上に茶褐色の蝶とそれを引く蟻が観えますか?クリックして大きな画像でご確認ください。


 

 小学校の教科書で「詩」と云えば、必ず出てきた三好達治の4行詩「土」は、詩集『南窗集』の中の一作です。

 「土」

蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのやうだ



 この詩の蝶は、多分「紋白蝶」でしょう。黒い蟻と白い蝶の「対比」の手法だとか「蟻」「蝶」の多画数の漢字の組み合わせの面白さなど、この詩の解釈はいろいろありますが、「ああ 〇〇のようだ」と結べば「詩」になるんだと云う程度にしか私には記憶がありませんでした。


 もう30年以上前ですが、必要から「西郷竹彦文芸教育集」を読んで、この詩の深さを教えられました。それは、確かこんな記述でした。

 「  」

蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのやうだ



 西郷氏は、有名なこの4行詩だけを示し、この詩の「題」を考えることで、詩人・三好達治の詩人たる力量を教えてくれました。



 先に紹介しましたようにこの詩の題は「土」ですが、いくら考えても「蟻が 蝶の羽をひいて行く  ああ  ヨットのやうだ」を読んで、凡人には「土」は出て来ませんでしたし、この詩の題名が「土」だったことも知りませんでした。

 西郷氏は、正確ではありませんが「この詩の凄いところは、たった4行でイメージを「土」から「海」へ転換出来る所にあり、そういう意味でも詩の第一行は題である」と、説きました。


 今日、杉浦醫院庭園で思いがけず三好達治の詩の世界を目の当たりにして、凡人が気付いたことは、蟻が蝶の羽を引いて行く「動き」方です。

 敷き詰められた川上石は、蟻にとっては大海の波のようにデコボコしていますから、引かれていく蝶の羽は上下に動き、さながら波にもまれて進むヨットの動きにそっくりでした。

 「しっかり観る」ことは、詩人や俳人の習慣のようですが、凡人には一服の効用でした。