前話で、昭和天皇が生物学者であったことに触れましたが、現在の天皇も「ハゼの研究」や「水生小動物の研究」では、世界的に知られた研究成果をあげているそうですし、秋篠宮は「ナマズの研究」、黒田清子女史も山階鳥類研究所の研究助手でしたから、皇族の研究対象は「生物学」が定番と云った印象もするので、早速、丁宗鉄著「天皇はなぜ生物学を研究するのか」(講談社+α新書)を読んでみました。興味や詳細を知りたい方は、本書を読んでいただくとして「なぜ生物学なのか?」についての著者の見解は、私には説得力がありましたから、ご紹介します。
本書によると日本の皇室が範とし、親しく交流してきたのは、ブータン国王一族ではなく、英国王室をはじめとするヨーロッパの王室や貴族であったことに「生物学」も由来しているそうです。これは、ヨーロッパ諸国の階級制度が背景にあり、現存する階級制度の最高位である貴族の嗜み(たしなみ)は、教養としての「学問」であり、たとえば日本の有産階級が好んでしたゴルフも下衆な嗜みで、あくまでも庶民のスポーツの一つであり、野球やサッカーのひいきのチームに熱を上げるのも庶民の嗜みと云った特権意識と差別意識に支えられた嗜みの階級化を日本の皇室も見本にした結果だと分析しています。
その上で、日本の皇族に「学問を嗜み(たしなみ)」として取れ入れるに際し、国民の利害と密接に関連する政治学や経済学あるいは評価の分かれる歴史学などは差し障りがあるので、誰の利害も損なわず安心して発表もできる生物学が皇室御用達学問として定着したと論じています。「顕微鏡」が生物学研究の要ですが、家一軒分にも相当する最高級品を揃えることで、新たな発見も含め研究しやすい分野が生物学であったのだと云う著者の見解は、ズバリと云った感じで、大変面白く読めました。