2013年8月17日土曜日

杉浦醫院四方山話―263 『亀谷 了「寄生虫館物語」4』

 亀谷了著「寄生虫館物語」に登場する寄生虫について、一つ一つ紹介していくと当分終わりませんので、興味のある方は、この機会に是非、著書をお読みいただくと、亀谷先生の情熱と寄生虫の本当の生態がお分かりいただけるかと思います。 
要は、寄生虫も宿主に世話になって生きている以上、宿主に害を及ぼして宿主を倒せば自分も生きていけないわけですから、寄生虫なりに「努力?」して、至っておだやかに生きている生物だということを亀谷先生は伝えたかったのでしょう。

 努力の仕方も様々ですが、宿主の体内に寄生する内部寄生虫では、寄生したとたんに「目玉などいらん」と自分の目玉を捨ててしまう寄生虫もいるそうです。どうせ真っ暗な臓器の中で静かに生涯を送るわけですから、キョロキョロする必要もないので、余計なものは捨てて、少しでも宿主の負担を軽減しようということでしょうか?究極の断捨離!元祖断捨離として、寄生虫の潔い身軽な生き方は亀谷先生の人生にも重なります
 

 宿主に実害をもたらす寄生虫は圧倒的に少ないものの存在しますが、その寄生虫も生き抜くために大変な努力をしているようで、日本住血吸虫を例に見てみましょう。日本住血吸虫は、甲府盆地一帯の湿地帯に生息するミヤイリガイを中間宿主に生育して、終宿主の哺乳類の体内に入ります。ミヤイリガイも日本住血吸虫の幼虫も流れが急な河川や水路には生息できませんから、有病地帯では、終息に向けての殺貝活動と共に河川、水路を勾配をとってコンクリート化することで水の流れをつくる溝渠改良工事が行われました。

 
 日本住血吸虫の幼虫は、中間宿主・ミヤイリガイの体内で2世代を過ごすとセルカリアになって、また水中に出てきます。セルカリアは、終宿主に行きつく為に水中を移動する必要から尻尾を持っていますが、人間などの終宿主にたどり着くと必要のない尻尾は捨て、血管の流れに身を任せるという矢張り断捨離派で、落ち着いた先で成虫になります。

 右の写真が、日本住血吸虫の成虫です。オスは1.2から2.0センチ、メスは 1.5から3.0センチとメスの方が大きく、その小さなオスが大きなメスを常に抱きかかえるように仲良くくっついているのが特徴です。
 この成虫は、人間など寄生する宿主の小腸から肝臓へ向かう門脈という血管の中に住み、そこで、宿主の赤血球を食べて生活するわけですが、血管の中は、血液が常時流れている水路と同じで、血液の流れは急流に相当しますから、終宿主に入るやオスはメスを抱き込み?いや、メスがオスに抱きつきか?どの道、流されてバラバラに離されてしまったら子孫が残せませんから雄雌一体となって寄生するという努力を一生涯しているのです。
ミヤイリガイの中での幼虫時は、オスとメスはくっついていないそうですから、血液の流れに抗するため合体して生きた結果、卵もポロポロ産み、宿主にも実害を及ぼすことになってしまったようです。

 まあ、寄生しやすく自在に変化する位の努力は、宿主のおこぼれで生活する以上当たり前かもしれませんが、日本住血吸虫のように生涯、オスメス合体の生活だけは勘弁ですね。