日本住血吸虫が寄生虫であることから、寄生虫関係の図書は、医師や生物学者のみならず農学、水産学の専門家にも研究者が多く、人間だけでなく家畜や昆虫、魚などに寄生する虫を扱っていますので、その活字資料も膨大です。しかし、大部分は「文献」の領域の専門家の研究資料で、不特定多数の来館者には、向きません。
杉浦醫院の書架にも主に三郎先生が購入した文献資料が多数残され、書架に入りきらず棚にも溢れています。右の写真は、日本寄生虫学会発行の「寄生虫学雑誌」の束で、三郎先生も日本寄生虫学会の会員だったことも記されています。このような地道な研究成果の蓄積をライターの小林照幸氏が整理して、日本住血吸虫症に絞ってまとめた著書「死の貝」が、読み物として地方病について広く知らしめる効力があるように誰にでも読める図書資料を収集していこうと考えています。
前にも書きましたが、昆虫や寄生虫の研究者は、総じて皆、面白い人が多く、面白い人が書く文章は、自ずと面白いので、引き込まれてしまうのでしょうが、矢張り、面白い人は、視点が面白いのだということを実感させてくれます。
特に寄生虫については、その多種多様、多彩な虫に更にその虫が宿る宿主が絡んできますし、中間宿主となる一時の宿主まで登場する寄生虫もあり、より複雑で興味深い関係が一層知の喜びも刺激してくれ楽しめます。
その代表格として、「寄生虫館物語」の亀谷了氏を先ずご紹介しましょう。亀谷氏は、目黒寄生虫館を独力で立ち上げた開業医であり、寄生虫研究の世界的先駆者、第一人者です。
日本住血吸虫は、ヒトなど哺乳類を終宿主にする寄生虫で、宿られた人間には迷惑この上ない寄生虫でしたが、「宿主に決して迷惑をかけない寄生虫が、寄生虫の大多数である」ことを亀谷先生は何度も繰り返し、「今日でも人や動物に致命的な害をする寄生虫がいることも確かであるが、それは本来、寄生すべきでない動物に、寄生虫が行ってしまった場合がほとんどである」と、「私、寄生虫の味方です」で一貫しています。暑い夏にゾッとする?そのエキスをご紹介して、「炎天を槍のごとくに涼気すぐー蛇笏ー」といたしましょう。