2015年1月5日月曜日

杉浦醫院四方山話―389『羊』

 

 あけましておめでとうございます。

干支も午から羊に変わった2015年、フルオープン2年目を迎える杉浦醫院を今年もどうぞよろしくお願いいたします。


杉浦醫院受付に毎年、干支の人形を飾ってくれる橋戸さんの作品です。バックは広報昭和1月号表紙。

 

 羊で思い出すのは「羊の皮をかぶった狼」と云う諺ですが、このフレーズも様々に引用されていますから、人によって抱くイメージも違っているのでしょう。

 

 例えば、車好きの人なら「羊の皮をかぶった狼」と云えば、往年のスカイラインGTが一般的ですが、シャリオのリゾートランナーGTやプレーリーリバティーのハイウェイスターGT4などミニバン、ワゴンタイプの車で、トンデモナイ走りをみせる車こそ正真正銘の「羊の皮をかぶった狼だ」と譲らないマニアもいます。

 

 この「羊の皮をかぶった狼」は、新約聖書の中で『偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である。(マタイ7;15)』 から来ているようです。

聖書では、「心迷える人間」を「羊」に例えていますし、「羊」は大人しく従順な女性や弱者、「狼」は乱暴な荒くれ者の比喩として使われてきて「子羊が送りオオカミに・・・」に代表されるような慣用句もありますから、群れる羊は万国共通で争わない平和的なイメージが定着しているようです。

 

その羊でもある今年は、敗戦70年の節目の年にも当たります。

フランスの哲学者サルトルの箴言に「金持ちが戦争を起こし、貧乏人が死ぬ」があり、「老人が戦争を起こし、若者が死ぬ」という言葉もありますが、これらの戦争観も通用しなくなってきているのが現代のようです。

 

 要は、「死ねた貧乏人や若者は幸せだった」と云う、より悲惨な戦争が現代戦だということでしょう。

「戦争が科学技術を進化させた」のも真理で、兵士の防弾服がめざましく進化し、爆破物による死亡率は著しく低下した反面、四肢や脳、眼球等を損傷されても生き残り、一生身体的、精神的に重篤な障害を抱え、死ぬ以上の苦しみで生きることを強いられるのです。

 

 戦死者より、負傷者のほうが救護兵力が必要になることやその後の医療費や社会保障費の支出で財政をひっ迫させることまで計算された戦術が現代戦の特徴です。

その結果、身体的損傷はなくてもPTSD=心的外傷後ストレス障害を患った帰還兵の自殺未遂は月平均1000件以上とか、財政に占める帰還兵関係の予算などアメリカが抱える課題は、現代戦の「如何に効率よく殺すか」ではなく、「如何に効率よく負傷させるか」の深刻さを物語ってます。


 

 そのアメリカが同盟国に負担を求める政策を強め、日本も応じるべく施策が際立ってきました。そんな中、今年の朝日新聞の<新春詠>(短歌の部)で、

高野公彦氏は、太郎を眠らせ次郎を眠らせ白き雪ふり積む秘密保護法列島

永田和宏氏は、まさかそんなとだれもが思ふそんな日がたしかにあった戦争の前と詠みました。

新春詠にも平和な羊年になるよう願わずにいられない歌人の魂の叫びが響き、群れて弱者、被害者を嘆く羊より、荒くれ一匹オオカミが求められる年であることを痛感した新年でもありました。