杉浦醫院四方山話―394 阿刀田高講演会 『隠居と識字率』
昨日、昭和町立図書館まつりの一環として、県立図書館長でもあり作家の阿刀田高氏による「読書はおいしぞ」と題した文化講演会が押原小学校多目的ホールで開催されました。星新一のSFモノよりエロスもあったりの阿刀田氏のショートショートの方が私には親しめ、一時期通勤電車の友でしたから聴きに行ってきました。
阿刀田氏が本の楽しさを覚えたのは父親の本棚にあった「落語全集」を読み漁ったことからだそうで、幼少期に落語のネタ本を何度も読み返した影響でしょう、阿刀田氏の語りは落語家を彷彿させる歯切れ良さとリズムカルなものでした。
また、阿刀田作品の計算しつくされた構成や巧な伏線、テンポの良い展開と落語のオチに繋がる奇想天外な結末なども幼少期の落語全集が阿刀田氏の文体として色濃く残っているように思いました。
何より落語のご隠居のセリフやお説教には、歴史や文化・風俗・芝居などの雑学や生活の知恵、人生訓までが詰まっていますから幼くして楽しみながら、多くの教養を阿刀田氏は自然に身につけたのでしょう。
この講演内容の全体報告は、図書館に譲るとして、私的に興味を持った話をご紹介します。
阿刀田氏は、日本が世界に誇る資源は?と問い、「識字率の高さ」を挙げました。日本と同じ文明国とされる欧米各国でも移民人口の多いこともあり、識字率は85パーセント前後なのに対し日本の識字率は99パーセントと世界一で、読書を楽しむ最低条件は字が読めることですから、日本人は、この資源をもっと誇り、活用しなくてはもったいないと指摘しました。
そして、日本の識字率の高さは、江戸時代の隠居制度にまでさかのぼることを教えてくれました。江戸時代は、人生5、60年でしたから、 早ければ40歳を過ぎたら家督を息子に譲って隠居しました。
まあ、40代で一線から身を引いても知力、体力を持て余す人も多かったのでしょう、隠居した若年寄りが手軽にできたのが「寺子屋」で、武士の子どもは藩校などで学びましたが庶民の子どもはこの「寺子屋」で、「読み書きそろばん」を習ったのが日本の識字率に大きく貢献したという話でした。
現代のようにいつまでも子どもの教育にお金など掛けないで、農民、職人、商人の子どもたちは、寺子屋で読み書きそろばんを習い、さらに細かく分けた職業別の教え=実学を修めたから子どもの独立も早かったのでしょう。
隠居してから日本中を測量をして日本地図の作成をした伊能忠敬は楽隠居の典型でしょうが、隠居制度の持つ文化価値も超高齢化社会のこれからの日本では、再検討、再評価が必要かもしれないと阿刀田先生の話を聴いて思いました。