前話で紹介した玄関先の「番傘代わりの蛇の目傘」も立派なものですが、「こんなのもありました」と持参いただいた2本は、表面にはうっすら油が施されていて手入れの行き届いた蛇の目傘です。
「番茶も出花」のコトワザもあるように「番」には、「普段の」と云った意味がありますから、「普段用の番茶でもいれたては味も香りも良い」が素直な解釈で、転じての「娘も・・・云々」は、個人差もありますし、本題と離れますので触れません。
和傘の「番傘」と「蛇の目傘」の違いも同様で、普段使いの和傘を番傘、お出かけ用の上等な和傘を蛇の目傘と分けていたというのが一般的でしょう。ですから、純子さんの云う「番傘代わりの蛇の目です」は、正確な表現であることが分かります。また、番傘の紙は厚く、骨竹の削りも粗く、安い油を引いた安価な傘で、江戸時代の商家が不意の雨の貸し出し用に屋号や番号を入れたことから番傘とよばれるようになったという説もあります。もっとも時代劇では、浪人と云えば破れ番傘片手に歩き、番傘を刀代わりに使ったり、下級武士の内職と云えば傘貼りが定番ですから、番傘は、男性用と云った感じです。着物姿の大原麗子が、蛇の目傘の頭を下に向け、軽く左右に回して、傘が少し開いたところで、か細い腕で、ゆっくり、そっと開いて、雨の中に消えていく・・・そんなシーンがあったような記憶も、蛇の目は女性用と云ったイメージに繋がっています。
後輩の結婚式で、とってつけた感のぬぐえない和装のご両人が、蛇の目の相合傘で「ご入場」した時は、思わず吹き出して笑ったことを思い出しましたが、これは、傘のシルエットが末広がりなので、縁起物ともされてきたことを式場が演出に取り入れた結果でしょう。傘の字は、八と十で構成されていることから、数え年八十歳の祝いを「傘寿(さんじゅ)」と云うのも縁起が良いことにも由来するのでしょう。傘も平安時代に中国から伝来したそうですが、安価な番傘が広がった江戸時代まで、一般庶民の雨具は、昔話の世界によく登場する「菅笠(すげがさ)」と「蓑(みの)」だったとさ。