2012年6月7日木曜日

杉浦醫院四方山話―146 『象嵌(ぞうがん)』

 先日、甲府で宝飾の経営、仕事をされている方々が来館されました。医院内を丁寧に見学して、2階で、DVDも鑑賞されました。2階床の間には、DVDを放映する53インチのテレビがありますが、その横に三郎先生が軍医として出征した時の軍刀を展示しています。これまでも、DVD鑑賞後「これは本物?」と、この刀に興味を示した来館者は結構いましたが、その刀が納まっている刀掛け(置き台)に眼を付けたのは、この日の方々が初めてでした。
「これは、凄いな」「ここまではめ込んである」「こういう職人技はもう出来ないな」と手にとって感心していました。
144話で、象嵌作家塩島東峰氏について記しましたが、東峰氏も刀の鞘(さや)や鍔(つば)に象嵌技術を駆使したと聞きましたから、刀掛けの製作も手掛けた事でしょう。
 象嵌(ぞうがん)は、文字どおり、象「かたどった」ものを嵌「はめる」工芸技法ですが、象嵌本来の意味は、一つの素材に異質の素材を嵌め込むと言う意味で、金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌等に分かれるそうです。金工象嵌は、シリアで生まれ、シルクロード経由で飛鳥時代に日本に伝わったとされています。江戸時代になると京都などに優れた職人が多数生まれ、日本刀や甲冑、鏡や文箱、重箱などに腕を振るったことから、現在も京都は象嵌工芸品の本場になっています。
   右の写真のように刀掛け(置き台)は、木製です。台座部分の優雅な形や柱部分の曲線など木工品としても素晴らしく手の込んだ造りですが、その全面に貝殻を素材にご覧のような連続模様を嵌め込んである訳ですから、気が遠くなるような時間と技術を要したものでしょう。同時に上下平面の統一した意匠や柱や側面の模様など全体を俯瞰したデザイン力にも目を見張ります。
「父は新しいものにしか興味がありませんでしたから、これは、祖父健造のモノだと思います」と云う純子さんの説明のように軍刀と刀掛けの傷み具合、経年変化には違いがあります。「金属供出で、他の刀は全て出しましたが、刀掛けは残っていますから、他の物も探しておきます」と。刀と刀掛けが、セットで数組あったということでしょう。