2012年3月16日金曜日

杉浦醫院四方山話―127 『吉本隆明死去』

60年安保で新左翼のカリスマ的存在となるなど、戦後思想界に大きな影響を与えた詩人で評論家の吉本隆明(よしもと・たかあき)さんが16日未明、肺炎のため東京都文京区の病院で死去した。87歳だった。(時事通信)

 終戦後、粗製乱造された私たちは「団塊の世代」と云われ、好き勝手に暴れた後はすんなり体制に順応し、そこそこ年金も享受できる時代に定年を迎えたことから、若い世代からは「取り逃げ世代」と嫌われるお荷物世代でもあります。そうは簡単にくくれない個人も居ますが、おしなべての象徴的存在が糸井重里でしょうか。(今回、敬称略で)
糸井の本職、コピーライターとしての隠れた名作に「思想界の吉田拓郎・吉本隆明」がありますが、確かに私たちの世代にとって、吉本リュウメイは大きな存在でした。私も吉本個人編集の自立誌「試行」の巻頭文「情況への発言」を毎号バイブルのように読んでいましたから、政治家の小泉純一郎や橋下徹の説法は、「状況への発言」での吉本流メッタ切りの二番、三番煎じで、違いは説得力のある吉本の根拠や内容と比べ、ご両人の人気に反比例して内容は乏しく、至って古い内容を声高に連呼しているだけかなというのが実感です。
 
 20年前、昭和町でも吉本が理想としていた遊民生活を送っていた山本哲が中心になって、「規約なし・会費なし・去る者は追わず、来るものは拒まずの入、退会自由」の自主サークル「昭和町カルチャーデザイン倶楽部」を立ち上げ、様々な活動をしてきました。この「会則なし」にも吉本の影響―規約を決めて組織をつくって、仲間を増やすようなやり方の文化活動はダメだ。それは結局、誰かが権力を握って人の自由を縛り、人を駒のように扱うスターリン主義になるだけだ―が、共通認識としてあってのことでした。
 「市井に生まれ、育ち、生活し、老いて死ぬといった生涯をくりかえした無数の人間は、千年に一度しかこの世に現れないという人間の価値とまったく同じである。」と語ったマルクス。吉本も「結婚して子供を生み、そして子供に背かれ、老いてくたばって死ぬ、そういう普通の生活者の人生、そういう生活の仕方をして生涯を終える者が、いちばん価値ある存在なんだ」と云い、自らもそのような視点で、ブレルことなく書き、生活してきた87年の詩的人生だったと訃報を聞いて思いました。
 80過ぎて書いた「超恋愛論」。例えば・・・20代までは何とか「恋愛の永続性」は信じられても、30代以降の恋愛心理というのは微妙な変化を蒙る。社会的・職業的役割が固定化されやすい中年期以降においては、「相互に責任を負わない恋愛(距離のあるパートナーシップ)」か「不義な恋愛(不倫など生活基盤を別枠に置いた男女関係)」でなければ、エロスと感情遊戯を中核に置く恋愛関係を続けることは困難である。・・・と。まあ、吉本の「不義な恋愛・不倫」を「婚外恋愛」と改称して薦める?上野千鶴子も団塊の世代の輝ける旗手ですから、吉本思想の進化継承者でしょうが、「恋愛」も思想として語るから思想家でしょうが、「好きだからしょうがない」の恋愛家志望です。