この国には、年中行事や四季折々の季節の言葉と心を集約した「歳時記」と云われる書物があります。日本人の季節のバイブルでもあり、「歳時記」によって日本の美しい四季のうつろいを確かめ、豊かな感情で生活する源にもなります。純子さんは、この歳時記を生活の中に定着させてきた人生といった感じで、今日も「きのうの雨は、本当に芽立ちの雨でしたね」と声をかけてくれました。
「目も悪い、耳も悪い、頭も顔も悪いで、本当にしょうがないですね」と謙遜が常の純子さんですが、季節を楽しむ術を心得て、四季折々を洒脱に暮らしながら、伝統文化や粋なふるまいを含めた歳時記をさりげなく教えてくれる爪を隠したありようは、古風でもあり新鮮です。
「芽立ちの雨」の実景は、杉浦醫院庭園のあちこちで散見出来ます。寒さの冬を越した命の芽吹きをそっとうながす春雨を「芽立ちの雨」と形容した先人の感受性と表現力にも感服します。