2010年11月30日火曜日

杉浦醫院四方山話―8 『ピアノ余話』

 昭和10年前後の「ピアノ」が、どのような位置を占めていたのか・・・「そうだ同じジュンコだ!」と昔、何度も観た映画をDVDで見直しました。新藤兼人脚本、高橋英樹主演の鈴木清順監督作品「けんかえれじい」です。製作したのは、昭和40年代ですが、映画の時代設定は、ちょうど昭和10年。清順監督が、脚本を無視して、どんどんアイデアを盛り込んだ為、新藤兼人氏が「私の脚本ではない」と怒ったと言ういわくつきの作品でもあります。あらためて清順氏の鬼才ぶりと高橋英樹の若くしなやかな肉体、思いを寄せる浅野順子の清廉な美しさ、全てまぶしくモノクロ映画の良さも確認できました。


 この映画で、マドンナ役の浅野順子が通う学校が、ミッションスクールという設定と彼女が家で弾くピアノは欠かせません。大正ロマンを引き継ぐ軟派に背を向け、旧制中学校の伝統的硬派精神を「けんか」を通してユーモラスに描き、「もっと大きなけんか(思想・政治)へ」と旅立たせる幕切れは、あの時代(1970年代)の若者への清順監督の熱いメッセージでもありました。鈴木監督が一番元気だった頃の作品「けんかえれじい」は、杉浦醫院の病院活動全盛期と合致していますので、当時の「ピアノ」の時代背景理解にも面白いかと・・・。

 杉浦醫院応接室には、ピアノと一緒に「ステレオ」もあります。スピーカーと一体型の懐かしいステレオです。中原俊監督のNHKドラマ「松ヶ枝町サーガ」では、このステレオが大切な役を演じています。この作品は、昭和初期の松ヶ枝町の日常を主人公の小学生・ツーちゃんの目を通してのドラマですが、この当時だったら実際に何処にでもありそうな風景や日常的な人間関係が、ノスタルジックかつシビアに描かれています。コーヒーを飲みながらステレオを聴きくという新生活を田舎町に持ち込んだ、岸部一徳演ずる「来たりモン」とそれを好奇心あふれる眼で覗く子どもたちが、杉浦医院のピアノ演奏に集まったFさんたちとダブります。

*2階「座学スペース」で、昭和時代の名作(?)鑑賞教室なども開催出来たらと思っています。