2015年11月5日木曜日

杉浦醫院四方山話―451 『 ピアノ再生物語2-出荷検査』

  前話で、辻村氏の「ピアノ調律論」は「出来る限り工場出荷当時の状態に戻すこと」と、紹介しましたが、辻村氏は現在の「辻村音楽企画店」を起業して独立するまで、河合楽器でピアノの製造に従事し、最終の「出荷検査技師」を永く務めていたそうです。


 ですから、カワイピアノをお持ちの方は、ピアノの製造番号が付されたお客様カードの一番上にある「出荷検査」の「技師名」をご確認ください。

「技師名に私の名前・辻村晴男とあるカワイピアノが相当数あります」と話し、このピアノの内部に保管されているお客様カードを取り出しました。


 「おっ、これは尾島さんだ。この尾島一二と云う人はヤマハの有名な技師で、ピアノの製造に係った人なら知らない人はいません」と感慨深げです。


 「杉浦三郎様御所有」と記された桜色のカードには、先ず「御注意」が記載されています。

「弊社製ピアノの調律修繕は生みの親の弊社技師に御任せ願ひます。カードの記録は後々迄仕事の責任を明らかにしてピアノの御保存上重要な役目をするものでありますから必ず記入させて頂きます」

 

 その下に「山葉ピアノ 平型NO.記念 製番NO.21346」とあり、1から12までの表の1出荷検査の技師名に「尾島一二」とあり「尾島印」と「9年7月14日」がしっかり読み取れます。

2納入検査は、「内藤正民」「内藤の角印」に「9年7月20日」とあります。



 上記から、昭和8年に皇太子生誕記念として受注生産したこのピアノを三郎先生が甲府の内藤楽器に注文し、約一年後の7月14日に浜松市のヤマハ工場から出荷され、内藤楽器の内藤正民氏が7月20日にこの応接室に納入したことが分かります。



 アクションを外し鍵盤を外すと鍵盤の下から内部にかけて積年の埃がたまっていました。 

「この埃が虫食いの原因になるんです。」と、虫が食べた跡がアルファッベッドのような模様になっている緑のフェルトを指差し「この程度ならまだ交換の必要はありませんが、計画的に交換していけると一番いいんですがね」と、埃を専用掃除機で取り去ると、ピアノ線の錆び取り作業など内部の磨きを黙々と進めるお二人に、マスクとエプロンは必需品でしたが、肝心な細かい作業になると手袋は外して・・・と、再生に掛ける情熱がひしひしと感じられました。