2013年2月12日火曜日
杉浦醫院四方山話―222 『見世物小屋』
冬の甲府盆地の風物詩は、節分の「大神さん」で始まり、湯村界隈での厄地蔵(やくじぞう)の縁日へと続きました。厄地蔵は、福田山塩澤寺で毎年2月13日午後0時から24時間行われる「厄除け地蔵尊祭り」の略称です。国の重要文化財にもなっている地蔵堂にある地蔵菩薩座像が、この24時間だけ願いを聞いて、お参りした人は厄を逃れることができると云う由来で、関東一円から多くの善男善女が訪れることでも有名です。
厄地蔵と云えば「かや飴」ですが、よく行った釣り堀のオヤジが、毎年この日は、露店でかや飴を売っていたのが不思議でした。 塩澤寺までの温泉通りには、たくさんの露店が立ち並び、特に厄地蔵には「見世物小屋」が必ずあったのが楽しみでした。
「上半身は絶世の美女、下半身は魚、この人魚が見れるのは今日だけだよ」という呼び声と原色の看板に誘われて入った「のぞき井戸」も見世物小屋ですが、かや飴を我慢して、入場料を払ったのを覚えています。
「人さらいが来て、サーカスや見世物小屋に売られるぞ」と脅かされて育った時代ですから、見世物小屋で、生きた蛇を首に巻いた女性が蛇と接吻をしているのを見た夜「あんな綺麗な女性がどうして?」とか「あの女の人も人さらいに売られたのか?」と、興奮して眠れなかった記憶もあります。そんな厄地蔵にもすっかりご無沙汰ですが、今も湯村温泉通り界隈に行くと何となく、怪しげな魔といった物の怪(け)を感じてしまうのですが・・
それは、学校で湯村温泉を「行ってはいけない所」と指導され、「何で?」と行ってみたくなり、友達と湯川沿いの雑草をかき分け、隠れ隠れ行ったこととも無縁ではないでしょう。柳並木の温泉通りに出ると日傘をさした顔が真っ白の着物姿の女性に出くわし、見世物小屋でもないのに幻想的な異界に来たようで、胸が躍りました。芸者と云う女性の職業がある事も学習して、S君と秘密の湯村芸者見学行が続きましたが、会える日は少なく持久戦を強いられました。昼日中では当然のことで、その辺はまだまだガキでしたが、あれ以来、「行ってはいけない所」には「行ってみる価値がる」と確信し、妖気な悪の世界の魅力と云ったものに惹かれるようになりました。
「見世物小屋の文化誌」によると、あんなに盛んだった見世物小屋も現在は新宿花園神社の酉の市で年に一度だけ開かれているだけだといいます。その名残は、せいぜい「お化け屋敷」と云ったところでしょうが、独特の口上とキッチュな布旗や横断幕で囲まれた見世物小屋の定番は、人間ポンプやへび女でしたが、湯村温泉郷の芸者同様、非日常的な世界で、もう一度見てみたいと思うのですが・・・・