2016年4月6日水曜日

杉浦醫院四方山話―470 『ダーク・ツーリズム-2』

 山梨では昨今「ワイン・ツーリズム」が脚光を浴びていますが、これは以前からあった「ワイナリー巡り」とは違った新たな旅行スタイルで、ワインの原料となるぶどうを育んだ土地を散策しながら、ワイン産地の自然や景観からそこで生活する人々や文化にも眼を向け醸造家とも交流して、自分好みのワインを探していく旅と云ったところでしょう。


 味の講釈より腰を落ち着けてじっくり飲みたい私のような人間にはあまり向かない旅ですが、フットワーク良く歩いて見学したり飲んだりの旅は、確かに単なる酒好きの宴会旅行とは一線を画す新たなスタイルで「若かったら、そんな飲み方も・・」とは思いますが、私には「どうも」です。


 そんな根暗向きの旅という訳ではありませんが「ダーク・ツーリズム」も「ワイン・ツーリズム」同様新たな旅のスタイルとして、もっと拡散していくに値する旅で、ジワリジワリですが広がっている様に思います。

 

 「ダーク・ツーリズム」と云う言葉は、日本では聞きなれないかも知れませんが、欧米では歴史も市民権もある旅の一ジャンルです。

直訳すると「暗い旅」ですから、物見遊山やレジャー志向の旅ではありませんが、例えば「広島の原爆ドームと平和公園は見ておきたい」とか「3・11の実態を自分の眼で確かめたい」と云った思いから旅に出るのが「ダーク・ツーリズム」ですから、何らかの「学習」を内包した旅とも云えますが、正確には「人類の悲しみを承継し、亡くなった方をともに悼む旅」と定義されています。

 

 「ダーク・ツーリズム」の象徴ともなっている「アウシュビッツ強制収容所」は、第二次世界大戦中に、ヒトラーのナチ政権が国家をあげて推進した人種差別政策により、最大級の惨劇が生まれた所ですが、ここでは見せしめの「死」からガス室に送られる「死」、飢餓による「死」、病気による「死」、過酷な労働による「死」など、ありとあらゆる「死」であふれていた日常を目の当たりにする訳で、「人類の悲しみを承継し、亡くなった方をともに悼む旅」に世界中から多くの人々が集まるのは、矢張り人間の尊厳ともいうべき畏敬の念は、普遍的に共通して持ち合わせた感情であることを証明しているのでしょう。


 山梨の風土病であった日本住血吸虫症=地方病も流行終息宣言から20年経つと若い世代からは「地方病って痴呆症のことかと思った」と云う素直な声や感想も聞かれる程、ある意味風化の一途をたどっていますが、山梨の近代と現代を語る上には欠かせない風土病で、多くの方々の命を奪った事実は消えません。

 

 山梨の「ダーク・ツーリズム」コースを構想すると当館は外せない存在になりますが、病だけでなく戦争による死者もいますし、死に限らず現在は姿を消してしまった多くの歴史的遺産などもダーク・ツーリズムを構成しますから、さしずめ当館はその拠点施設ともなりますから、点を線にしていくようなハブ機能も考えていきたいと思います。