前話で紹介したように 「昆虫採集セット」は、昭和30年代まで少年の夏休みの友として、文具店や駄菓子屋には必ずある商品でした。100円と云う値段も子ども向けに設定され、能書きは立派でしたがプラスチック製の安っぽいセットで、「ルーペ」などと気取った虫メガネもレンズまでプラスチックでした。当然、昆虫標本づくり以外にもこれらのセットを使っての「ごっこ遊び」もしました。代表的なのが、注射器を持って注射を打つ真似をする「お医者さんごっこ」でしたが、私は奥手だったので、男同士まででしたが、女の子を看護婦さんに付けてのツワモノもいました。
確か高校生の時でしたから、昭和40年初頭に、このセットの注射器に水を入れて水鉄砲遊びをしていた際、水と一緒に注射針も飛んで、少女が失明したという事故が、大々的に報道され「昆虫採集セット」が槍玉にあがったのを覚えています。針を付けたままやったかどうかまでは記憶にありませんが、私もこの注射器で水鉄砲遊びもしましたから、販売を禁止すべきだと云った報道は良く覚えています。
小学生の頃、当たり前のように鉛筆削りとして使っていた「肥後守(ひごのかみ)」のナイフから始まって、学校の回転式遊具や公園のジャンボ滑り台など「安心・安全」の流れの中で、使用禁止になって、子どもの世界から消えていったモノはたくさんあります。きっかけは、必ず何処かで起こった事故でしたから、「昆虫採集セット」もこの失明事故がきっかけで消えたのでしょう。
また、昆虫用とはいえ注射器でしたから、悪い遊びが高じて、人にも使ったり、覚せい剤を打つ道具に使ったりもあったのでしょうが、本来、国家免許を取得した医療関係者が使うものを子どもたちに野放しにしておいて良いのかと云う、管理社会が後押ししたことは想像に難くありません。
肥後守ナイフは、研げば切れ味もよみがえり、使うほど愛着も湧く素晴らしいナイフでしたが、それに代わって推奨されたのが「ボンナイフ」というチャチなモノでした。写真でもお分かりのように歯は取り替え可能なカミソリでしたが、確か「安全カミソリ」と云う商標だったと思いますから、刃物でも「安全」が付いていれば良かったのでしょうか?この後、「鉛筆削り」と云う器械的なモノが一気に広がって、左手に持った鉛筆を右手の刃物は固定して「削る」という手の文化は衰退したように、現在の「昆虫採集セット」は、「虫取り網」と「虫かご」を指すようになり、注射器や殺虫液など本来の「昆虫採集セット」は、昔懐かしいアイテムとなってしまいました。
刃物で思い出しましたが、昭和40年代頃まではあったと思いますが、理科の実験でやった「フナの解剖」も消えて久しいですね。小学校で「フナ」、中学で「カエル」でしたが、高校の生物では、この手の実験は無く、受験用の講義が中心で、思い出もありません。生きているフナやカエルをメスで切り開くために殺すわけですから「残酷だ」と云う批判もあったのでしょうが、女の子とグループでの解剖実験は、「昆虫採集セット」で昆虫を殺し慣れているうえに感受性も乏しい私などには、ハレの場でしたから、こういう「場」も消えた現代の男の子は、「かわいそうだなあー」と思うのですが、スポーツ少年団と云う正々堂々ルールに従って競う紳士的なステージもたくさん用意されていますから、「大きなお世話」でしょうか。
※画像は,「明石機工有限会社H・P」と「まぼろしチャンネル」から拝借しました。