2012年4月14日土曜日

杉浦醫院四方山話―134 『硯(すずり)・硯箱―1』

   日本の硯の4大産地の一つが山梨県早川町雨畑です。雨畑一帯で採れる玄晶石という粘板岩の材料石は、程よい黒の輝きを放つことでも人気です。最も歴史のある硯は、宮城県石巻市の雄勝硯ですが、3・11の東日本大震災で石巻市旧雄勝町地域は大きな被害を受け、生産が途絶えてしまい現在は入手困難になっているそうです。津波被害は、水産業や工業と云った基幹産業のみならず、小規模地場産業には生産の目途も立たない大打撃となっているようです。
 杉浦家の硯は、全て雨畑硯です。代々日常的に使っていた硯と硯箱が右の写真です。朱色の漆塗りの硯箱は、ご覧のように台座もある工芸品です。この台座の四隅上下計8か所には、金具が打たれています。同じ彫金の金具が縦と横4面にも上下に埋め込まれ、蓋箱との兼ね合いで補強の金具と云うより装飾金具であることが分かります。全て彫金師の手による、手作りの誂え金具でしょう。
「これは、祖母たかのものだと聞いていますから、100年以上前の硯箱ですが、私も普通に使ってきましたが、手触りが段々良くなってくるのが分かりました」と純子さん。たかさんから娘の綾さんを経て純子さんへと杉浦家の女性が三代に渡って日常品として使いこんできた文具。
ゴミのように溢れかえるボールペン類等々からアット云う間に消え去ったワープロ。パソコンも某社の陰謀だろうと勘繰りたくなる目まぐるしいOSの進化?による交換など現代文具は使い捨てが主流です。地方の街々にあった文房具屋や万年筆専門店も消えて行き、地方の「文具フェチ」は、ネット購入が主流だとか・・・
 職人の確かな技で延々と彫り、組み立てられ、塗られた硯箱が代々引き継がれ、多くの墨文書や手紙に愛用され、その使命を全うしている硯箱は、ノスタルジーを超えた古き良き時代の美術工芸品であり文化遺産であることを物語っています。「そうそう、この硯箱とお揃いの小さな箱がありました。少しでも目が見えるうちに探しておきますから」と・・・