2013年10月9日水曜日

 杉浦醫院四方山話―281『内田樹甲府講演会ー3』

 内田樹氏を招いたJCは、疲弊著しい甲府の街を「希望あふれる街」へと活性化させていくために、JCメンバーが「希望を力に」「希望に挑み」をスローガンに内田氏を講師に「街場のリーダー論」を拝聴して、知力向上を図ろうという企画だったようです。郎月堂にあったポスターにもその辺の意気込みは表象されていました。

 先ず、内田氏は甲府市に限らず日本の地方都市は全て弱体化して、どこでも再生を願って「町おこし」を図っているが、自分たち一人ひとりの消費行動の見直しと日本人の消費価値観そのものを問わなければ、地方都市の再生は無いとスイスを例に語りだしました。

 ユーロに加盟しないスイス国民は、ドイツ等から入ってくる安い商品より割高でもスイス製のものを買うことが定着しているそうです。 それは、安い外国製品に飛びつけば、スイスの産業は衰え、結果として自分たちの雇用もなくなって、国も国民も貧困化していくと云う「経済」活動の原則を知っているからで、高くてもスイス製を買う国民の消費価値観が、スイスを豊かな国にしているのだと・・・
 「安いことは良いこと」と云う短期的判断が長期的には自分たちの首を縛るという経済原理と高くても近隣の商店街で買い物をすることで、共同体を維持していこうという経済活動を国も行政も個人もしてこなかったのが、現在の日本の地方都市の衰退であると・・・・  甲府市の再生は、甲府市民に同胞と云った共同体意識があるか否かにかかっていて、JCがいくら旗を振っても市民に呼応する意識がなけば再生復活は困難であろうと悲観的でした。

 その上で、JCが求めるリーダー論でも時間を区切ったプランやマニュアルでリーダーが育つことはないとして、もともと「リーダー」の思想は、右に行くか左に行くかリーダーの決断・指示が、民族の生存につながった遊牧民族の思想で、日本のような農耕民族は、みんなで知恵を出し合い相談して決めるまとめ役がリーダーでしたから、「かつぐ神輿は軽い方がいい」と云うリーダー論が、現代でも通用していると明解に指摘しました。

 日本は、「和をもって貴しとなす」と最初の憲法で定めたてきた国です。それは、アラビアのロレンスやアラファト議長のような強いリーダーをむしろ排するように造ってきた国でもある訳です。だから、歴史上少なくとも3回大きな外的民族が日本に流入して来ましたが、一神教の国のようにこの流入民族を強いリーダーのもと国内に入れない戦いをしてきたかと云うと八百万の神を崇めてきた日本では族外婚(ぞくがいこん)と云う雑婚によって宥和、定着させ血の刷新も図ってきたと云う特殊な民族ですから、「強いリーダーシップ必要論」も効率優先の成果主義が叫ばれだしたほんの最近の現象であることを示唆してくれました。

 ちなみに、日清・日露の戦いで陸軍大将として、日本の勝利に大きく貢献した「陸の大山、海の東郷」と言われた大山巌大将は、「自分は何も決めず、指示せず。部下に好きなようにやらせて、責任は自分がとる」リーダーだったそうです。歴代最強の陸軍を作り上げたのは、大山大将の部下を信頼することで部下の能力とやる気を最大限引き出し、隊をまとめるという調整力こそが、一番必要とされたリーダーの資質だったことも検証されているといいますから、成果主義や効率主義の現代社会が求めるリーダーは、本質的に日本人のDNAと違う価値観が強要されているようです。

 今日の新聞広告で、内田樹氏の最新刊「街場の憂国論」の発刊を知りました。「脱グローバリズム」と云った文字も散見され、今回の甲府講演では、その辺のエキスを語ってくれたのかなと思いましたが、無料だった今講演の礼の意味でもアマゾンではなく街の本屋で購入しようと思います。