上の写真は、三郎先生の醫院長室です。「父はここで庭を見ながらの煙草が唯一の趣味でした」と云うように愛用の喫煙道具が机の中に残されていました。机上前列は、三郎先生愛用のシガーケース、後列は、灰皿です。シガーケースはべっ甲や銀の携帯用や来客にも勧める為のボックス型など様々です。灰皿も三郎先生の好みの丸型のモノと患者さんからプレゼントされた動物型のモノまで、「その日の気分で楽しんで使い分けていました」と純子さん。
前話で紹介した 「喫煙文化研究会」のスローガンは「喫煙文化を守り、美しい分煙社会の実現を!」ですが、三郎先生はそのパイオニアでもありました。以前「当時の醫院長室にしては狭く質素で不自然だ」と文化庁の調査官が指摘したとおり、この部屋は三郎先生が「美しい分煙」を実践する為に増築した醫院長室でもありました。誰にも気兼なく紫煙を楽しめるよう東南西の三面はガラス窓で開放でき、廊下に続く北側も二枚引き戸を閉めると個室になります。
渋谷の公園通りにある「たばこと塩の博物館」では、現在「林忠彦写真展〜紫煙と文士たち〜」の企画展を開催中です。酒場のカウンターで煙草片手に足を放り投げた太宰治の写真は、あまりに有名ですが、井伏鱒二の書斎でのさあいっぷく写真も味わい深い一枚です。この書斎、三郎先生の醫院長室と構造がよく似ています。煙草を自然に楽しめた昭和の文士。その文士を煙草に絞って撮影した林忠彦氏。「紫煙文化」が堪能できる企画展でしょう。